三菱重工長崎造船所 (戦艦武蔵ドック)
戦艦「武蔵」を建造したドックが現在でも残っている。
一号艦(大和)は呉海軍工廠で建造されたが
同型の二号艦(武蔵)は民間会社である三菱がここ長崎で建造した。
「今の話はだれにも言わないでおくれよ
おれが話したなんてことがわかるとまずいから」
そう言った老人の眼はおびえていた。
もう戦争は遠くの昔に終わっているというのに。
長崎の街はすり鉢の底のような形をしている。 四方を山々に囲まれ
海を見下ろせるところに、三菱重工長崎造船所がある。
第二号艦(戦艦武蔵)は秘匿に徹して建造が進められた。
建造中の目隠しとして、棕櫚(しゅろ:漁で使う縄)をドッグ上部より
スダレのようにたれ下げたが、それでも造船所を見下ろしたり建造中の
船について話題にあげたりした者はスパイの 疑いをかけられ、憲兵隊に
捕まり執拗な尋問を受けた。 いつしか、その存在は「お化け」と
噂されるようになった。
軍が買い占めた棕櫚の量は膨大であり、市場から棕櫚が消えた。
それもまた「お化け」の噂の一端となる。
長崎の住民は皆おびえていた。 史上異様と言える、その建造過程で
心血を注いだ三菱の技術者と工員、そして何も知らない、否、 決して
存在を口にしてはならなかった「お化け」の噂。
戦艦武蔵誕生の歴史がここにある。
「女神橋」より望む長崎の街
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