パンの秘密
前回からの続き
落語「彦六伝」で8代目林家正蔵、のちに彦六となる師匠の伝記
の中の小噺です。彦六伝は新作落語ですが、古典のように
アップデートが繰り返されています。
以下、彦六伝より抜粋
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「お前は戦争で捕虜になったことがあるか?」
「いや、ないんですけど」
「ロシアというのはひどい国で、捕虜になると、飯に固い固い
パンが出るよ。その半分ぐらいのパンの、中身ほやわらかいほうを食べるか、
外側の固い皮(ミミ)を食べるか、お前はどっちを選ぶ」
「どちらかというと、やわらかいほうを食べたいですね」
「ああ、それが間違いだ。そこがパンの秘密だな」
「はあ、秘密ですか」
「捕虜仲間が中身のやわらかいほうをわけてくれるんだ
すると、貰ったほうは感謝するな。
ああ、美味しい譲ってくれて、自分は不味いところを食べて
この人は人格者だなと。
よく考えてみな。やわらかいほうはすぐに腹が減ってしまう。
固いほうは、噛んでも噛んでも、固い。なかなか腹が減らないな。
したがって生き残るのは固い方だ。
捕虜になったときのためによく覚えておきな」
「はあ、弟子に捕虜になったときのことも考えてくれて
ありがとうございます」
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