僕には宝物がふたつある(1)
僕には宝物がふたつある。
そのうち、ひとつの話をしようと思う。
僕が小学生の頃、幕張メッセで「アメリカ博」
という大きな催し物が開催され、両親に連れて行ってもらった。
僕がそこで一番見たかったのは、アポロ11号の司令船だ。
アポロ11号は人類ではじめて月に行った宇宙船だ。
当時の僕は、宇宙に対する興味や憧れがとても大きかった。
もちろんいまでもそうだ。
展示会場の真ん中にアポロ司令船は置かれていた。
円錐形の司令船は、大気圏突入の摩擦熱で
真っ黒になって、それに付随した鮮やかな三つの
パラシュートがとてもとても印象的だったことを
憶えている。
会場の一角にはお土産売り場があった。
そこで、僕はどうしても欲しくなってしまったものがあった。
本物の宇宙ロケットの破片である。僅か数センチの正方形に切り取られ
アクリルに封入された金属片のオブジェには英文でこう書かれている。
「アトラスAC-67号機。1987年3月26日打ち上げ。
打ち上げから54秒後に閃光と共に砕け散る」
当時は英文読めなかったのだけれど(打ち上げ失敗しているとは
知らず、だけど、この金属片が遥かなる宇宙を目指したことに
変わりはない。)ただ、ただ、宇宙ロケットのパーツが手に
入るなんて夢のようで、目をキラキラさせてどうしても欲しくなった。
金属片には焦げ目がついていて、打ち上げの火力が想像できる。
普段、滅多に物をねだらない僕だったけど
母に欲しいと言った。値段はたしか6000円だったと思った。
考えようによっては、というか、大方ただの鉄屑である。
母もそう思っていたらしく、むなしくも却下された。
しょんぼり帰ろうとしていたとき、父が言った。
「僕の来月の小遣いがあるから、それで買ってやってよ」
当時の父の6000円の小遣いは大金のはずである。
父は、後にも先にもこの件で恩着せがましいことを口にすることはなかった。
僕はとても喜んで、包みを大切に持って帰って、家の棚の
一番目立つところに飾って、宇宙への想いを馳せた。
あれから30年。父に買ってもらった
宇宙ロケットの破片は、変わらず、僕のアトリエの
一番目立つところに飾ってある。最初も今も、宝物には
変わりないが、当初は物としての価値であった。最近は、
そのときの父とのエピソードが形となり残る、大切な物である。
わが屋号
アトリエ「空のカケラ」の由来である。
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