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2019年2月15日 (金)

2月15日

14日の閉店後、
天井の吊りポップ「バレンタインデー」を「ホワイトデー」に
一気に差し替える。背丈の1.5倍ある脚立を使って、
通路の端から端まで交換して行く。
天井付近は暖房の暖かい空気が滞って暑い。
真冬だが半袖で汗をかきながら。
 
一時期は店長を含め、スタッフ全員女性だった。 
若い男子は使い勝手が良いらしい。
たうそう重宝される。みんなの役に立つのはとても嬉しい。
だから一生懸命に働いた。
  
閉店後、レジ締めなど全ての仕事が終わると、一時間程、
女性店長(一人称・姉さん)が、細い煙草の煙を
漂わせながら「彼氏に直してほしいところ」等のお話しを聞く時間となる。
毎日閉店後、約一時間。「あたし的には~」で始まるお話しに
熱心に耳を傾けていた。時給は出ない。姉さんは車を持っていないので、
このお話しを一通り聞いてから、家の近くまで僕の車で送って
いくのが常だった。他の女性スタッフは閉店と同時に
すみやかに帰宅している。
 
姉さんの煙草が灰皿の上で短くなってくると
淡い期待を持つ。ふたたび火をつけると、それは裏切られた。
 
ひととおりお話しすると、姉さんは全ての疲れが
取れたような顔をしていた。家までの夜道の心配もなく、
姉さんの話も面白かったので、すべてがうまくいき、
これでよかったと思う。
 
話を戻す。
 
2月15日、朝。天井POPは閉店後に差し替えたが、
売り場変更はまだこれからだ。
バレンタインデーの売り場づくりで重視したのは雰囲気だったが、
今度はホワイトデー。今度の売り場はわかりやすさを重視する。
 
女性にとっての買い物は見て迷って楽しむことだと考えているが
男性は買うことが目的である。
 
だから値段の位置を揃えて、商品もキッチリ陳列する。
どれを選んでいいかわからない男性も多いので
きめこまかいおすすめのPOPを書く。僕が女子っぽい字で。
 
ゴールデンラインの位置をやや上げる。
 
店内から適当に品物を持って来て
手が届かない棚にディスプレイを施す。
女性向け売り場は手の届く棚にもディスプレイして構わないが
男性向けの売り場で同じことをやると男性は混乱するので
基本的に手の届く範囲は陳列である。 
 
(陳列:同じ品物を種類ごとに一列に並べること
ディスプレイ:商品を無造作に並べること)
 
チョコレートの棚を解体しようとしていると
女性客がきて
「まだバレンタインデー用の包装紙でやってくれますか?」
と言う。
 
僕はバックヤードから嬉々として包装紙を五種類も持ってくると
女性客に選んでもらい、丁寧に包装した。
 
僕は包装作業が好きだった。ただ、こういうのを
姉さん(もとい店長)に見つかると、いつも
 
「あなたの仕事は脚立でしょ」
と言われてレジから追い出されてしまうのが寂しかった。
だから姉さんの目を盗んで速やかに実施し、笑顔の
女性客を送り出した。
 
踵を返すと、始終を見ていた姉さんが
ニヤニヤしながら
 
「包装してるあなた、楽しそうねー」と言った。
 
すべてがうまくいっていた。
 
忙しさにもまれて、忘れかけていた
春が、もうそこまで来ていた。

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