ペリリューの幽霊 (1)
ペリリュー島で戦跡を歩いていたときのことだ。
その夜、私は現地の宿に泊まっていた。
スコールが降っても日中の熱気がまだ壁や床に残っているようで、
夕飯の席についても、湿った空気が漂っていた。
食事をしていると、日本人らしき男二人がこちらに近づいてきた。
肌は焼け、観光ダイバーといった風情。
「日本人の方ですか?」
片方の男が、声をかけてきた。
「ここって、すごい戦争があった場所じゃないですか。
兵隊の幽霊が出るらしいんですよ。そういうの、見えたりします?
へっへっへっへ・・・」
もう一人が笑いながら、 悪意というほどではないけれど、
どこか面白半分の響きがあった。
同じ日本人でありながら、これほどまでに温度差があるものなのか。
観光もダイビングもいいが、太平洋の防波堤となって散華した
防人の、とかいろいろ考えてやめた。わたしは箸を置き、ボソリと言った。
「玉砕していますからね。幽霊にでもなって出てきてくれれば、
当時の話を詳しく聞けるんですが」
冗談のつもりはなかった。本当にそう思っていれば
兵隊さんも悪いようにはしないと信じていたから。
だが、その言葉を聞いた瞬間、二人の顔から笑みが消え
みるみる青ざめていくのがわかった。
「そう、ですか・・・」
二人は気まずそうに目を逸らすと、逃げるように席を離れていった。
私は再び箸を取り食事を続けた。
せっかくの楽しい夜に水を差したかもしれない。悪いことをした。
外では、バナナの葉が夜風に揺れ。 遠くで波の音が聞こえる。
かつてのような艦砲射撃も空襲もない、静かな夜である。
そして、全員が寝静まった深夜のことだった。
(つづく)
