伝家の宝刀
靖国神社。例大祭が無事終わり、
帰りにソフトアイスでも食べようと、M陸軍大尉とともに
参道脇の休憩所に腰を下ろす。
桜はすっかり散って、いまは萌木である。
心地良い風が時折通り抜ける。
M大尉は、大鳥居を仰ぎながら、
ひとつ、ふたつ、思い出したことを話し始める。
「僕が陸軍士官学校を出て、新品の少尉だった頃ね、
軍刀とか、拳銃とか、そういうのは、みんな自腹で
買わなきゃいけなかった。
その店が、この近くにあったんだけど・・・。」
「だから少尉なりたては貧乏だったね。歌の文句にもあるよね」
♪大佐中佐少佐は老いぼれで、
といって大尉にや妻があり
若い少尉さんにや金がない
女泣かせの中尉どの
「で、そこの店でボクも軍刀を買ったんだけど、質が悪くてね、
その頃には上等な刀なんてなかった。2,3人斬ったらおしまいだ。
・・・僕も白兵戦では斬ったんだけどね・・・。
だからね、あれはほとんど将校さんの飾りだね。」
「家がいいとこの奴は、出征するとき、伝家の宝刀持ってくるんだ。
軍刀はみんな私物だったね」
「戦争でいい刀が随分失われたんじゃないかな」
-----------------------
これとはまた、別の話であるが、
T陸軍大尉、少尉に任官したてで白兵戦となった。
部下は歴戦の猛者である。
夜間の切り込みである。
いよいよ、というとき、少尉の銃剣が月の光を
帯びて光った。
「いけません!少尉殿!銃剣を着けては敵に居場所が知れます!」
そう言うと部下はニッコリ笑って
「少尉殿は初陣で緊張されている。ここは自分たちが行きます!」
そういって、闇へ消えて行ったのである。
T大尉は終戦まで、命を繋いだが、白兵戦の数は13回を数えた。
勿論その頃には、最前線で部下を率いていた。
最近、飛行機ばかり書いているが、
歩兵の方から聞いた話も話もたくさんあるので、
できる限り、残していきたい。
コメント