素敵なクリスマスを
年の瀬の迫ったある日の事、
僕は東北新幹線に乗って東京に向かっていた。
車内は混雑していて座る場所はなかったので
デッキに立って、外の景色を眺めていた。
反対側のドア付近では、座り込んだ若い男性が
ノートパソコンをカタカタと打っている。
突然、客室のドアが開いて五十年配の男性(以下オッサン)が
デッキに出てきた。千鳥足。泥酔している様子。
そしてなにやらビニール袋をごぞごそと探ると
「おい、にーちゃん、飲め」
僕に差し出されたのはペッドボトルのお茶だった。
遠慮できぬまま受け取ってしまう。
同様に反対側のパソコン男性にもそれを押し付ける。
「いや、いいです」男性はモニターに目を落としまま、それを断る。
関わりたくないのだろう。うまいこと断ったなあ。
「ああん!?毒はんて入ってねえから!、飲め飲め!」
オッサン、僕にそういうので
僕は間髪入れずにペッドボトルの封を切り、一気に喉に流し込んだ。
「ほらな。はいってねえだろ」
「はい。ありがとうございます。丁度喉が渇いていましたので」
「はああ、そりゃあよかった」
オッサン、満面の笑みを浮かべる。
すると今度はオッサンちょっと泣きそうな顔になって
「1号車のババアどもがよーーーー!うるせえんだよ!
だから、このお茶を配って雰囲気よく静かにしてもらいたかったんだけどよ!
いぶかしがるばっかりでナ!!!俺はぁ!!!怪しいもんじゃねええ!!!」
いや、オッサン、怪しいよ。
そりゃそうだ。おっさん。悪いけど。
僕は腹を決めて東京に着くまでこのオッサンに寄り添うと決めた。
「にいちゃん、どこから乗った???」
「宇都宮です」
「あああ、じゃあ俺と同じだな!」
嘘だ。このオッサンはすでに乗っていた。
東北のどこかだだろう。
「オッサン、今日は新幹線でどこへ?」
するとオッサン、またニッコリしてこう言う。
「息子に会いに行くのよ」
「それは楽しみだな。しばらく会ってなかったんかい」
「あああ・・・・それはもう・・・上野で降りるよ」
「上野?あそこのホームは地下4階だから、
その足じゃ・・・エレベーターを使うと良いよ」
「なああああ???大丈夫だあああ。俺は何回も上野行ってんだ。大丈夫」
「それならいいけど。エレベーター使ってよ」
「ああ、大丈夫、大丈夫」
間もなく上野に着く。
オッサン、たくさん買い込んでしまったお茶を
袋から取り出し、戻しを繰り返している。
「これ、どうすっかな」
「全部、貰うよ。喉が渇いてたんだ」
「ああ、そう、じゃあ貰ってくれる?」
オッサン、ニッコリ笑うと袋を渡してくる。
それをぜんぶ受け取る。
上野駅に着いてドアが開く。
「じゃあ、世話になったな」
「息子さんも喜びますよ。気を付けてね」
「あんたに会えてよかったよ」
「僕もです」
「じゃあな、メリークリスマス!」
「はい。素敵なクリスマスをお過ごしくださいね」
ドアが閉まって、オッサンはすぐに見えなくなった。
オッサンから貰った大量のペッドポトルのお茶を
鞄につめ先を急いだ。
僕のクリスマスの実話である。
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