ベトナム解放戦線(2)
前回からの続き
「ベトコンの軍隊に入隊してくれ!階級は二階級進級させる。
給料は倍出そう。奥さんを提供する。植民地解放の為に
戦っている。ベトコンに協力してくれ」
思いがけぬ敗戦の報せに不安定になっていた
日本軍に対し、誘いが何度も何度もやってきた。
ホーチミンの進撃
ハノイからはホーチミン将軍を盟主とした
越南独立同盟党がベトナム民主共和国の独立を宣言。
サイゴンに向かって進撃を開始した。
ベトナム独立運動は一般民衆をも刺激し
「打倒フランス」の雄叫びをあげ仏印全土へ広がって行く。
解放戦線へ加わる者たち
「決して軽拳妄動してはならぬ!」
連隊長の訓示も空しく、毎日のように離隊者
(解放戦線へ身を投じる者)が続出した。
光橋中尉は戦争が終結した以上、部下をこれ以上
一人も死なせず日本へ連れて帰ることを決意していたが
ついに光橋中尉率いる五中隊からも離隊者が出る。
Nという兵隊が手榴弾を持って逃亡する。
Nは離隊の際、一度帰ってきて雨の降る晩にまた出て行ったという。
一個分隊でNを捜索に出た。
捜索中、揺り籠の女が居た。
女の視線が二階を気にするので
行って見ると、そこに案の定Nが居た。
「なんで国へ帰らないんだ。もう戦争はおわったんだぞ!」
「・・・おっかやん死んだから」
「そんな証拠どこにあるんだ!」
「・・・いや、もう弱かったから」
「そんなことあるか!故郷に帰るぞ!」
事なきを得て、Nをプノンペンに連れ帰った。
フランス軍を守る
8月15日をもって、サイゴンの捕虜収容所にあった
フランス軍は一転、一応の戦勝国となり
連合軍司令部となった。しかしもっとも弱かったのが
サイゴンの連合軍司令部であった。
サイゴンの市街地の中心に僅かなフランス軍、それを
ぐるりと英印軍が守り、それでもベトナム解放軍が破って来るので
さらに広域に渡って再武装した日本軍が警備にあたった。
フランス軍一個中隊(約200名)がベトコンに襲撃を食らって壊滅した。
警備のため、日本軍一個分隊(20名)が出動。彼らは日本軍
兵士の姿を目撃すると、ただちに攻撃をやめ、間もなく両軍による戦闘は
沈静化した。このほかにも各地で小競り合いが起きていたが
日本軍が出動するとピタリと止んだ。
ベトナム解放軍はメコン川にかかる橋の破壊工作を開始した。
それは徒歩で渡れるような小さな橋から、大きな鉄道橋も含まれていた。
破壊工作というのは、彼らは橋の橋脚や骨組みはそのまま残し、
踏み板のみを撤去してしまうのだという。
サイゴンの連合軍司令部からは、ベトコンの武装解除せよと
(ベトコンは武装解除に応じないからつまり彼らを撃破せよ、ということか)
命令が飛んでくる。それで解放軍のところへ一応は出動するのだが
友達だから、お互い戦いたくはないし、皮肉にも日本軍が戻った地域は
至って平穏そのものとなる。
メコン川の西側に光橋中尉の部下の分隊が取り残された。
部下の分隊は解放軍に包囲されている。
フランス軍からはベトコンを駆逐せよと
命令が飛んできている。彼らは日本軍と戦わない。
そのかわり徹底してフランス軍には抵抗したため
部下の分隊は戦わずメコン川の向こう岸で孤立している。
ベトナム解放軍へ告ぐ、日本人として最後の訴え
光橋中尉が出動し、橋を守る解放軍兵士の士官と話をしたが
フランス軍の指揮下とあれば頑なに橋を通そうとしない。
彼らは要求を断り「帰れ帰れ」と言いながら、なぜか
あたたかい食事を用意してくれる。それでいてお互いに
「向こう岸へ通せ」、「嫌だ、絶対に通さん」と繰り返し
拳銃を突きつけあっている。
不思議な関係だった。ついに光橋中尉は決心する。
「お前ら!もう俺たちは戦争に負けて日本へ帰るんだから
独立するんならしっかりやらなきゃダメだそ!」
日本は戦争に負けた。それなのに、
2、3年すれば日本は再び強国になってベトナムに戻ってきてくれると
本気で信じていたベトナム民が多く存在したからだ。
「俺はもう話さんぞ!時間切れだ!向こう岸へ渡る!
お前らの好きなようにしろ!撃ちたければ撃て!」
光橋中尉は解放軍の士官にそう言い残すと、橋を渡り始めた。
向こう岸に残る部下を救うために。
ベトナム解放軍の士官と兵士は最後のセリフに圧倒され
黙って見ていた。
一方、アンコールワットの東側では、ハノイに近く
日本軍にも敵意をむき出しにして南下するホーチミン将軍と
氏木中隊が戦っていた。
つづく
また、少しずつ書きます。
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