七月の硫黄島へ
来月も硫黄島へ行く。硫黄島は医療設備が無いため、渡航前に
医師の署名した「健康証明書」を提出する必要がある。
そこでかかりつけの診療所を訪ねた。
六十年配の先生は
いつもの柔和な表情から一転、神妙な面持ちになり
「私も祖国のために命を奉げた方々の供養をしたい。
本当は私も仕事が無ければ行きたいのですが」
と思いを馳せた。さらに
「これは私からの餞別です」と言って
診断書の代金を受け取らなかった。
硫黄島へ行きたいけど行けない人たちがたくさんいる。
代表者として恥ずかしくない振る舞いを
しなければならないと改めて覚悟した。
先生は診察室の外に出て、手を振って私を見送ってくれた。
その見送りは私だけに向けられたものではないことを感じた。
私は、ねんごろにお礼を述べて診療所を後にした。
薫風が心地よく水面を揺らす、
田んぼ沿いの道を歩いて帰った。
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