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2019年5月24日 (金)

四人の友人

毎日、会う四人の友人がいる。
 
薄暮のころ、
マラソンに出かける。
体を維持するというよりかは、走ると頭がすっきりして
よく眠れるから、夕方のこの時間に走る。
 
家を出て、数十メートル
一人目の友人とすれ違う。
庭で草花を手入れする、四十年配の女性である。
彼女とは、仕事で会う機会もあるのだけど、
家が違いので、必然的に会う。これが
仕事の場面で再開すると、すっぴんを見られて、と
照れて笑うが、うるわしい。
 
坂道に差し掛かる。体の重さを感じながら
地面を蹴って、傾斜を上る。
二人目の友人は、いつもここで遭遇して、追い越す
僕と同じ、ランナー。
三十代くらいの男性で
彼もこれを常としているようで、 
同じ方向に走っている。 
 
彼は走り乍らに、中ぐらいの声で何か独り言をしゃべっている。
追い越しざまに、その横顔が視線をかすめる。
 
かれはいつも泣いている。涙を後ろに流しながら、彼は走る。
歩いていることもあるけれど、立ち止まる姿を見たことは
一度もない。
 
アスファルトの道を折れて
川沿いの砂利道に入る。
田植え前の水田が磨かれた鏡のように
美しい。空を映して、世界が二倍になったように
一番、心地よいころ、
 
右側は森、萌黄から深い緑に、日々色をかえてゆく。
夏の暑さをしのぐために、いまのうち、いまのうちと
枝葉を伸ばし、深く根を張る。もっとも暑さが厳しくなるころ
ぼくたちは、その一葉、一葉がつくりだす木陰に
恩恵を授かる。
 
三人目の友人は、この土手で
釣りをしている。後ろ姿しか見たころがないから顔は知らない。
かれはいつも、バッターボックスに立つ
野球選手のように、適度なスタンスを取り、釣り竿を構える。
適度な緊張感と、リラックス、両方を備えている。
かれがリールを巻くと、浮きが川面をさかのぼって波紋を残す。
 
薄暮の空に、満月を3日ほど過ぎて
欠け始めた月が輝いている。遠くのスタジアムを建設する
赤と白のクレーンが伸びて、そろそろ、月まで届く。
 
やがて、スタジアムのコンクリートで覆い隠されても、
月はそこで輝いているだろう。
 
ここまでの友人は、いずれも今までのいずれかの
自分自身と、出会ってきた人に重なるのだけれど
四人目だけは、わからない。
 
四人目、具体的にいれば
二人と一匹。
仲睦まじく散歩する
初老の夫婦と、ワンちゃんである。

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