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2018年7月10日 (火)

タイ空軍の隼

タイ空軍の隼
昭和19年1月
一式戦「隼」三機が、同盟国だったタイ王国空軍に
引き渡されている。飛行第三十三戦隊の山本斉大尉は
19年1月、バンコクの防空にあたっていた
山本大尉の回想によると、同じドムアン基地の東側には
タイ空軍の基地があって、米国製マーチン複葉機があった。
空襲警報があると飛び立っていたが、敵機を攻撃すると言う
より空中退避をして地上での破壊を逃れていたようであった。

間もなく「タイ空軍に一式戦三機を引き渡すことになったので
シンガポールに受領に行って来い」との中隊長命令があり、
山本大尉は部下を連れ輸送機でシンガポールへ向かう。
 
デンガー飛行場補給廠に到着すると、受領する三機の隼があった。
隼は海軍の空母で内地から輸送されたようで
機体の全面に防腐油が塗ってあり、機体に上がるどころか
手を触れることもできないほど油だらけの状態であった。
補給廠で油を取り除き、整備に二、三日かかったが、
無事ドムアン飛行場まで三機の空輸が完了。
 
そのあくる日、三機をタイ空軍に引き渡すことになった。
隼の売買は昭和通商という民間会社が担っていた。
 
タイ空軍中佐と山本大尉は通訳を通じて
引き渡しを行う事となったが、山本大尉が日本語で喋り、
それを昭和通商社員が英語に直してタイ人通訳に伝え、
そのタイ人通訳がタイ空軍中佐に伝えるという方法を
とることになった。
 
山本大尉が操縦席内の銘板を差し「製造年月日はいついつで、
中島飛行機で製造されたものである」と説明したところ、
タイ空軍中佐から「それは嘘ではないか?この飛行機は
ドイツで製造され、日本が勝手に銘板をつけたのではないか?」
との返答であった。
 
本来なら「何を無礼な」と山本大尉が一喝してもおかしく
ないところだが実は、その少し前、山本大尉は日本語の少し
話せるタイ人の青年とバンコクの街を歩く機会があって、大尉が
「世界で一番強い軍隊を持っているのはどこか」と質問したところ
青年は「一番がドイツ、二番がアメリカ、三番がタイ、四番が
イギリス、五番目が日本」と答えた。
 
さらにバンコクの中央郵便局の三階建ての建物を指さすと
「こんな大きな建物が日本にあるか」と大真面目な質問を
受けたこともあった。

そうした出来事を思い出すと、山本大尉はタイ空軍中佐の
言った事に憤慨する気にならず「あそこに我が軍の隼が
たくさんある。ぜんぶ日本の中島飛行機で作ったものだから
見てこい」と告げる。タイ空軍中佐は渋々納得したような
顔になったようだった。
 
タイ空軍のパイロットは全員が欧米へ留学し基本教育を受けていた。
全員が将校で飛行時間も一千時間以上のベテランであった。彼らは
飛行服というものを着ず、正式の軍服の肩章だけ外していた。
欧米に留学していただけあって、常に礼儀正しく、通訳を
通して説明したこともよく守り、慎重な訓練を行っていた。
当時、タイ空軍では自分の不注意で飛行機を壊した場合、
自腹で弁償しなければならないという決まりだった。
タイ空軍パイロットは、全てにおいて優秀であったが、
基本訓練では、上側方の接敵は日本人パイロットの場合、
左旋回で降下突進のが通常だが、彼らは再三、教えても
右旋回突進を繰り返すのであった。左旋回が有利な事を
説明したが、最後まで聞き入れては貰えなかった。
のちに右旋回突進は欧米流が身について離れないという
ことが判明した。

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