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2017年5月18日 (木)

疲れ切った人へ

帰路、京王線で新宿へ向かう途中、前を走る電車が人身事故に
遭遇して、運行が止まってしまった。
 
隣に居た東京在住の友人によれば、
確実に1時間は動かないと言う。
JR武蔵野線の駅まで歩いて、横浜方面まで出た。 
結果的には時間がかかり、運休した電車に座っていても
それほど変わらなかったと思う。
 
人身事故というのは大方、自殺だろう。
 
友人が東京で電車の運転手をしている。
確実に1時間動かない理由を話してくれた。
どんなに見込みがないバラバラの遺体でも、法的には
要救助者である。レスキューが必要なのだ。
 
鉄道職員だけでの死亡判定はできない。
だから警察の到着を待たねばならず、それで
どんなに早くても復旧迄1時間はかかるそうだ。
 
以前は、法規が曖昧で、
鉄道職員だけで現場を処理し、すぐに運行再開が可能だった。
  
友人は、電車の運転中に人身事故に4度ほど遭遇している。
定年退職まで一度も事故に遭遇しない運転手もいれば
自分のように、何度も遭遇する者も居る、それが不思議だと言う。 
 
ホームから飛び降りる人間は一目見て、すぐにそれだと解る。
だがブレーキをかけても間に合わない。
 
どうしようもない。
 
身投げした人間が運転席のガラスを突き破り、 
それが右側だったから運よく助かった。
折れ曲がった足が、顔のすぐ傍まで来ていた。
その足を力いっぱい、払いのけた。
運転席の計器類が血まみれで、代えのきかないマスコンキーは
水で洗ってそのまま使った。
 
別のケースでは、線路上で撥ねて、
緊急ブレーキをかけて停止。
まだ息のあったので、救命に努めた。
 
足は胴体から離れていたので、ショックを受けるから
彼にそれを見せないよう、
足だけ持って、死角に移動したのだが、
とても重かった。これはもう助からない、と思ったが。
 
息を引き取る瞬間、彼と目が合って、
それが、とても悲しそうな目をして
何かを喋ろうとしていた。彼がこの世で最後に見たのが
自分の顔だったのか、と。
 
現場の惨状には慣れたが、
その悲しそうな目がずっと忘れられないという。
 
運転手や鉄道職員はもう精一杯である。
 
私達に出来ることは何か。
 
自殺する人間に
死ぬ勇気があるなら生きる勇気もある筈と
言う者がいるが、それは的確でない。
 
人間の身体は魂の器に過ぎず
死を考える直前の人間など、その重い身体を
ようやくひきずって歩いている状態なのだと思う。
 
だから、どこか軸がずれていて、アンバランスに歩く。
魂はホームの後ろ側に置いてあって、体だけが
コントロールが効かず、線路のほうへ滑り落ちて行くのだと思う。
 
死ぬのは勇気などではない。
疲れ果てて眠りに落ちるのに似ている。
 
物理的に、ホームドアの設置や高い策を設けるのは有効である。
でも、少し余裕があるのなら、ホームに
ベンチを設けたらどうかと思う。
  
そこに座っていれば、少しは気持ちが落ち着くかも
しれない。一度座れば重い体を起して立ち上がって
線路内に滑り落ちて行くことも少ない。
  
だから、そのベンチに荷物を置いて占領してはいけない。
誰か、疲れていそうな人が来たら、その荷物を膝の上に避けて
どうぞ、と促してやる。
 
スマートフォンに目を落としていると、疲れて、悲しそうな
目の人が隣に居てもわからない。無関心は孤独を助長する。
  
あなたの隣に一人分でいいから、疲れた人が
休める場所を作ってやるのが良い。

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